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4月, 2012の投稿を表示しています

ペロペロペロ

 動物愛護センターから乳飲み子四匹を救い出し育ててくださったAさんがいて、いまのひいがいる。  Aさん宅でひいとお見合いをしたとき、ひいは狂ったように激しく私の顔を首を耳を舐めた。もちろん初対面である。それまで、ひいが他所の人にこのようにしたことはなかったらしい。  あれは何だったのだろうと、しばしば妻と話をする。  いろいろ理由を考えてみるのだが、私たちの群れに編入することがわかっていたのではないか、としか思えないのだった。  犬が相手の顔を舐めるのは、服従の意思や愛着の気持ちを表現するためらしい。つまり私に対して、「よろしく、よろしく」と必死になっていたことになる。そこで疑問として残るのは、人間の言葉がわからない犬が、どうして別の群れに編入することを理解していたのかという点だ。  Aさんに限らず保護した犬を育ててくださっているかたのブログを読むと、お見合いの日で初対面だというのに甘えんぼうぶりを発揮している犬がすくなくない。そして犬は届けられた日、ひいがそうだったように、保護してくださって世話になったかたとの別れを悲しんでいる様子がない。ひいはいまだにAさんと旦那さんに会うと、うれしくてうれしくてたまらなくなるのだけれど、それとこれとは別らしい。  オオカミの習性を調べてみると、いろいろな事情で元いた群れを出て行く個体がいることがわかる。これがいわゆる一匹オオカミなのだが、集団で狩りをする動物であるオオカミが一匹で生きるのはなにかとつらいし、そもそも群れの順位や愛情が重要な意味を持っているので、別の群れに合流したり、出戻ってくるそうだ。ご先祖様のオオカミでも群れから出る者があるのだが、犬にも同じことが言えるとみてよいと思う。  新しい群れに入ったり、出戻った場合、このオオカミの新しい群れでの序列は最下位からやり直しになる。まあここで、「よろしく、よろしく」となるのはわかるのだが、初対面で事情を察知できる能力の説明にはならない。  こうして結局は、犬が空気を読む能力は「すごい、すごい」でいつも謎解きは終わらざるを得ないのだった。  2008年4月26日、雨が降る肌寒いなかをひいは車で我が家にやってきた。  そしていまも、一日が終わろうとする時刻になると、オトウの、オカアの顔をペロペロ舐める。もういいよ、と言っても許してくれない。

要求!

 夜更けに、眠っていたはずのひいがやってきて、机に向かって座っている私の太ももに飛びつき前脚を掛けて立ち上がった。そして、じっとこちらを見つめる。 「なにか、頼みごとかな。小便は済ませたはずだけど」  と思うや、キャンと吠えた。  キンキン響く大声は切羽詰まったものを感じさせ、もし小便がしたいのだったらさあ大変、と私は急いでひいを玄関から外へ出した。  ところがひいは、夜の空気をクンクンかぐだけだった。  数分待ったが小便をする様子がないので家の中に戻した。ひいは玄関から寝室に直行し、布団にもぐると顔だけ出している。しかも寝ている場所は、普段、私が横たわる場所の隣。これでひいの意図がわかった。 「オトウ、早く寝よう。私と寝よう」  という強い要求だったのだ。  すぐ寝るわけには行かなかったが、数十分してベッドの布団に潜り込むと、ひいは満足を感じたときの大きなため息をついた。  この夜のひいは、一晩中、私にぴったりくっついたままだった。  これに限らず、最近のひいは私への要求が多いというか、いちいち感情のこもりかたが激しい。  居間から寝室へ行きたそうにしているときも、一匹で行けるはずなのに、一途な眼で見つめてくる。 「いっしょに行きたい」  なのだ。  私が立ち上がると、ひいは跳ね上がるようにしてついてくる。  また、こんなこともたびたびある。妻が食事の支度をしていて、私が自室でそろそろご飯かなと思っているとひいがやってくる。そして、私の体を前脚でトントンと叩く。無視していると、切なげにクゥと鳴く。 「ご飯の時間は、みんなそろうべきなのです」  と私を呼びにきているのだ。  どうも言葉が喋れないことに苛立ちがあるような風情でもある。喋れたらさぞうるさいだろうから、今のままでちょうどよい。うるささは想像してみればすぐわかる。 「オトウ、アレしよう」 「オトウ、いっしょじゃなきゃいや」 「オトウ、くっついて」 「オトウ、どっかいっちゃいや」 「オトウ、ソレちょうだい」  四六時中、オトウ、オトウ、オトウだ。  とにかくひいは、私のことを願望をかなえてくれる人としているのは間違いない。甘やかしすぎたのかな、とも思う。でも群れの秩序をひっくり返して、自分がいちばん偉いと考えている様子はない。どちらかというと、赤ちゃんがえりのような印象を受ける。  それとも、やはり自分

おくればせながら狂犬病予防注射

 過日、狂犬病予防注射を接種するため動物病院へ。ひいにとって、鑑札をもっている日本の犬にとっての一年のはじまりと言ったところか。そして、ひいの一年に一度の健康診断の日でもある。  毎度のことではあるがひいは家を出る前から常ならぬものを察知して、不審そうに私を見つめた。そこをなんとか外に連れ出し動物病院まで歩いて行ったのだが、病院そのものは恐くはないらしく自分から自動ドアの中へ入った。ところが待合室ではぶるぶる震えが止まらない。ほかの犬たちは落ち着いていて、犬同士「コンニチワ」という感じで尻のにおいをかいだり、飼い主になでられてうっとりしてしているというのに。  しばらくして、ひいの順番が回ってきた。  先生には、毎年恒例の血液検査と、フロントライン、カルドメックの処方もお願いする。そういえば去年は血液検査の解析にミスがあり、BUN値が異常に高く現れ、ひいの命は風前の灯かもしれないと宣告されたっけ。再検査の結果、まったくの健康体であることがわかりほっとしたけれど、あのときはオトウもオカアも泣いたのである。  まずは体重測定。体重11.2kgなり。  前回、12月のワクチン接種のときの測定から300gの減量成功。先生からも「やせましたね」の言葉をもらう。太り過ぎには見えないけれど、それでもあと2kgすくなくてもよいらしい。あの小さな体で2kgは、私の肥えた体で何kgに相当するのだろうか。ひいはまたしばらく餌の量を減らすことになり、私はコンニャク入りご飯を食べ続けるのである。犬の世界も、人の世界も厳しい。  採血、狂犬病予防注射も無事終了。  注射そのものはさほど痛くなさそうだし、先生と看護師のお姉さんは優しいし、ひいも抵抗したり逆らったりしない。それなのに、診察室を出て待合室に戻ると私の膝に救いを求めるように必死になってよじ登ってきた。家のソファーと違い待合室の椅子は座面の奥行きがないので、ひいを膝に乗せたままでいるのはとてもつらい。しかもずり落ちないようにひいが太ももにしがみつくので痛いし、こちらは無理な姿勢を強いられる。あまりに重たいから膝から降ろすと、今度は股の間に逃げ込んだ。  ようやくフロントラインとカルドメックをもらい、会計。  受付に向かおうとするが、ひいは床に這いつくばって動かない。これを見ていた他の飼い主からも、院長の奥さんからも、「こわがりさん

オオカミよ!

 ひいと暮らしはじめてからというもの、オオカミが気になってしかたない。  オオカミが犬と遺伝子的に違いのない動物で、一万五千年ほど前に人間が家畜化して犬へ枝分かれして行ったことはよく知られている。つまり、ひいのご先祖様なのだから親近感が湧くというものだ。しかし、ひいが行く動物病院には、「この犬種からあの犬種がつくられ、さらに」と犬種を網羅した見事な系統図が貼られてはいても、この図の頂上に君臨すべきオオカミが描かれていない。このことが、すこしばかりさみしい。  なぜ、さみしいのだろう。  ひいはたぶん数代続いた雑種で、家畜化されて改良を重ねられた純血種の犬から遠くはずれている。姿かたちは、犬の原種とか原点などと言えるものが仮にあるとするなら、これに近そうだ。しかも、古い犬科の動物に見られる狼爪(ろうそう)があったことも、先祖帰りをしている証拠のような気がする。故に、ひいとは何かを考えるとき、オオカミへの親近感だけでなく、オオカミの中にひいの血を、ひいの中にオオカミの血を見つけたい気持ちがあるのかもしれない。  このような思いを抱いてオオカミを求め YouTube をさまよい歩いていたとき、次の動画を見つけた。 [ Reunion between Anita and the wolves http://www.youtube.com/v/3hdUCzbCuYk ] [ How to Photograph Wolves at Wolf Park / http://www.youtube.com/v/CMCWbF4HG3U ] [ Wolfgang & Wotan Muzzle Grab at Wolf Park / http://www.youtube.com/v/E3l2vihsQNY ] [ The Wolves / http://youtu.be/20SWz2Gf_BY ]  愛犬王とも呼ばれる犬研究の第一人者平岩米吉がオオカミを飼っていて、オオカミが彼に最大最上の敬意を払い心を通わせていたことは本で読んで知っていたが、動画は闊達な平岩米吉の文章をさらに上回る説得力がある。  大好きな人と数ヶ月ぶりの再会を喜ぶオオカミは、しっぽをぶんぶん振って、うれションまでして、もう何