動物愛護センターから乳飲み子四匹を救い出し育ててくださったAさんがいて、いまのひいがいる。
Aさん宅でひいとお見合いをしたとき、ひいは狂ったように激しく私の顔を首を耳を舐めた。もちろん初対面である。それまで、ひいが他所の人にこのようにしたことはなかったらしい。
あれは何だったのだろうと、しばしば妻と話をする。
いろいろ理由を考えてみるのだが、私たちの群れに編入することがわかっていたのではないか、としか思えないのだった。
犬が相手の顔を舐めるのは、服従の意思や愛着の気持ちを表現するためらしい。つまり私に対して、「よろしく、よろしく」と必死になっていたことになる。そこで疑問として残るのは、人間の言葉がわからない犬が、どうして別の群れに編入することを理解していたのかという点だ。
Aさんに限らず保護した犬を育ててくださっているかたのブログを読むと、お見合いの日で初対面だというのに甘えんぼうぶりを発揮している犬がすくなくない。そして犬は届けられた日、ひいがそうだったように、保護してくださって世話になったかたとの別れを悲しんでいる様子がない。ひいはいまだにAさんと旦那さんに会うと、うれしくてうれしくてたまらなくなるのだけれど、それとこれとは別らしい。
オオカミの習性を調べてみると、いろいろな事情で元いた群れを出て行く個体がいることがわかる。これがいわゆる一匹オオカミなのだが、集団で狩りをする動物であるオオカミが一匹で生きるのはなにかとつらいし、そもそも群れの順位や愛情が重要な意味を持っているので、別の群れに合流したり、出戻ってくるそうだ。ご先祖様のオオカミでも群れから出る者があるのだが、犬にも同じことが言えるとみてよいと思う。
新しい群れに入ったり、出戻った場合、このオオカミの新しい群れでの序列は最下位からやり直しになる。まあここで、「よろしく、よろしく」となるのはわかるのだが、初対面で事情を察知できる能力の説明にはならない。
こうして結局は、犬が空気を読む能力は「すごい、すごい」でいつも謎解きは終わらざるを得ないのだった。
2008年4月26日、雨が降る肌寒いなかをひいは車で我が家にやってきた。
そしていまも、一日が終わろうとする時刻になると、オトウの、オカアの顔をペロペロ舐める。もういいよ、と言っても許してくれない。
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