ひいがいない、と思ったら妻が仕事部屋にしている和室にいた。ぐたっと長くなって寝ている姿を見るまでもなく、私も暑くてへばっているわけだから涼しい場所を探し出したことがわかる。ひときわ暑い日の暑い時刻、なぜか寝室と私の部屋は蒸し風呂のようで、妻の部屋だけ風通しがよいのだ。
私と妻が穫れたて茹でたてのとうもろこしを台所でつまみ食いしているときも、いつものひいなら気配を感じ取ってやってくるところだが、畳の心地よさに勝るものはないのか姿を見せない。
「あのですね、ふーっと音がして、冷たい風が出てきて、湿気がなくなるのは使わないのですか」
ひいはエアコンを心待ちにしているのかもしれない。
私は床屋に行って3mmのバリカンでガリガリ髪を刈り上げ坊主頭になったからよいものの、ひいは体中に毛が生えている。しかも汗がかけないから、舌で体温調節をするほかない。大きめの立った耳は放熱の助けになっているのだろうが、それで追いつくものではなさそうだ。
最近のエアコンは大型テレビより消費電力がすくないという話を聞くからスイッチを入れることをさほど恐れなくてよいのだが、まだあとちょっと辛抱という気がしないでもない。まだ七月、いやもう七月ではあるのだが。
南向きの居間は、まさに温室となって30度を超えている。これでは扇風機は温風器でしかない。我が家が温室ということは、犬だけの留守番が長いお宅はもう限界にきているのではないだろうか。
「Aさんチームのみんな元気かな」
と妻が言った。
Aさんはひいたちを動物愛護センターから救い出してくれた方で、チームとはAさん宅から巣立っていった犬たちだ。リュウ君、マロン君、ふうかちゃんはひいの兄弟姉妹、まげちゃん、ラピスちゃん、みのりちゃん、ジブラ君、もっともっといる犬たちを妻は一頭ずつ名前を挙げていった。そこには特別会員であるAさんの飼い犬、チコリちゃん、珀君がいて、預かり犬となっているバニーちゃん、ちびちゃんもいる。
みんな何ごともなく夏を乗り切ってほしい。
なぜって。ひいに兄弟姉妹がいて、縁のある犬がいることが、たとえ毎日会う顔ぶれでないとしてもとても愉快だ。そしてひいが我が家にこなければ、一生、知り合うこともなかった人々を身近に思えることがうれしい。いつまでも続いてもらいたいものだ。
チームの犬はみんなそれぞれで、飼い主のかたがたもそれぞれで、群れもそれぞれ。共通点よりも違うところが多いだろう。でもこれが世界で、それでも世界だ。いろいろな愛しかたがあって、愛されかたがあって、これがいい。ぼんやりしていると忘れてしまうけれど、とても大切なことだ。
歳を取ったせいかもう暑さにやられて、こんなことに気づかされた。
「そうかもしれませんが、ふーっと音がして、冷たい風が出てきて、湿気がなくなるのは、いつ」
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