ひいがソファーに横たわり、だらんと投げ出した両前脚の間に顔をはさんでぼんやりしている。眠っているような起きているような。
ひいは退屈なのだろう。
苦髪楽爪と言うけれど、ずいぶん爪が伸びている。
たぶんひいに苦労はないだろうし、苦労しているとしたらかわいそうだ。だから楽をして爪が伸びるくらいのほうが、私としては気が楽である。まあ、ひいの場合、何があっても毛が伸びることはないけれど。
ひいは退屈だとしても、群れがあれこれ慌ただしいのも考えものだ。
三年前の秋、ひいはひどい下痢をした。日頃、粗相などしないのに居間に泥のようなうんちをし、嘔吐と血便もあったので重病の可能性を考えなければならなかった。
下痢が治ったかと思うと、今度は右耳の先にできものができて、その重さで耳が半折れになった。これは犬にしかできない皮膚組織球腫というもので、感染するものではなく、どうして発症するのか未だにわからないだけでなく治療法もないとか。
日に日に皮膚組織球腫は大きくなり、毎日かさぶたから出血した。命に関わるものでないとはわかっていても、完全に治るまでの半年ほどは気が気でなかった。なにせ、「あまりに大きくなって治らないようなら、耳の先を切るほかないかもしれません」と動物病院の先生に言われたのだ。
病気がらみでは、血液検査で出た数値から末期的な腎臓病と言われ、分析ミスとわかるまではオトウとオカアは泣いて暮らした。
ここまではもっぱら私と妻があたふたしたできごとだが、ひいにとって落ち着かない日もある。
ひいは群れの空気を敏感に読む。
私がいらいらしたり落ち込んでいると、これがいけない。「どうしたの」とずっとこちらを見つめ、自分では解決しようのない息苦しさに戸惑っている。このときひいは、私たちがひいの病気を心配したり悲しみを感じているときと同じつらさを味わっているのではないか。
つくづく、ひいに申し訳ない。
だからこそ、何ごともない日はありがたい。
ぼうっとしているひいの傍らで、私もぼうっとする。
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