我が家の台所の入り口は二台の冷蔵庫に囲まれている。
ここにある大きな冷蔵庫は人間用、古い小さな一台は自分のおやつ用と、ひいは思っている。
そう思っているのはひいだけで、古い冷蔵庫は大きな冷蔵庫に収まらないものを入れているに過ぎない。でも、ここに「開封後要冷蔵」のひいのおやつが入っているのも事実だ。
だから古い冷蔵庫を開けると、おやつがもらえると思い、さっとお座りの姿勢を取る。では大きな冷蔵庫を開けたとき反応しないかというと、そうではない。じっとこちらを見て、大好物が出てくることを期待している。
大好物とはヨーグルトのことだ。
どちらの冷蔵庫も、ひいにとって魅惑の箱のようだ。
さらに魅惑の箱に囲まれた先も、ひいはおいしいものが出てくる場所と知っている。
たとえばおやつ用に、鶏肉ややげんと呼ばれる鶏の軟骨、牛すじ肉に火を通す場所が台所であることをわかっているのだ。
でも台所でひいのおやつばかりつくっている訳ではなく、人間が肉を焼いたり煮たりするときも、味付けされたものは彼女にはやれないけれど、犬が大好きなにおいが立ち上る。
肉類だけではない。ひいのこれまた大好物のトーストを焼くのも台所だ。だから、ひいはオーブントースターのタイマーが立てるジジジという音とチンという音の意味をいつの間にか憶えた。
こんなときひいは、魅惑の箱と箱の間で眼を丸く見開き、恐いくらい真剣な表情で台所を見つめる。
何かもらえるだろうか、それとももらえないのだろうか、といったところだ。おいしいもの出てくるの? と。
残念でした。これはオトウとオカアが食べるピザトースト。
なのだが、当然もらえるものとひいはテーブルまでやってくる。そして、私はピザトーストのパンの耳をちぎり、打って変わってかわいい顔をつくっておとなしく待っているひいにやることになる。犬にとって肥満は大敵と思いながらも。
ここまでがひいの作戦で、まんまんとひっかかってやっているんだ、と強がりを言いつつ。
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